金属バットを背中に背負う球児




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【不思議】高校野球で金属バットを禁止しないのはなぜか?




夏の音、と言ったら皆さん何を思い浮かべますか?

セミの声や打ち上げ花火の音、波の音など色々あると思いますが、高校野球好きの私にとって夏と言えば甲子園!というわけで「カキィーン!」という金属バットの音ですね。
これをきいただけで満員の甲子園球場の映像が浮かんできます。

さて、なぜ金属バットの音が甲子園と結びつくのか…といいますと、金属バットを使用できるのは高校野球までだからでしょうか。

大学野球やプロ野球では金属バットが禁止されているんですね。
そして近年、高校野球でも金属バットを禁止するべきという声が上がっているのだそうです。

たしかに、なぜ高校野球では金属バットが禁止されていないのでしょうか?
そこで、禁止すべきという声の理由と、高校野球で金属バットを使用し続ける理由をまとめてみました。

高校野球で金属バットを禁止すべきという意見

バットに球を当てる球児
高校野球での金属バット使用禁止を望む声は、プロ野球経験者など野球に詳しい関係者から多くきかれているようです。

ですから理由をきくと「なるほど」と頷ける意見が多く、高校球児の将来を考えているからこそ上がっている声なのだと感じます。

木製バットに適応できない

金属バットを使うのは高校野球まで。

ということは大学やプロに進んで野球を続ける球児はその後木製バットを使うことになります。
初めて木製バットを使う選手は当然金属バットとの違いに戸惑います。

大学やプロで結果を出す前に木製バットに慣れる期間が必要となり、中には最後まで適応できずに夢を諦めてしまう選手もいます。

プロ野球のドラフト会議で、高卒の選手より大卒の選手の方が即戦力扱いされるのはこうした面もあるでしょう。

ですから、最近は先を見据えて木製バットで練習している強豪校もあります。

また、国際大会でも2000年頃から金属バットを禁止して木製バットを使用する流れになっていて、今年(2018年)甲子園を沸かせた大阪桐蔭の根尾選手や、藤原選手などのスターが出場した国際大会で日本が敗退したのは、木製バットに対応できなかった打撃陣の不振が原因と言われています。

金属バットの危険性

国際的に金属バットが禁止されはじめた背景には、金属バットでの事故事例が増加しているという要因があります。

ニューヨーク市議会では市内の公立高校で金属バットの使用を禁止する条例案が可決され、その際「金属製バットは選手を、野球が本来持っている以上の危険にさらす」と指摘されています。

日本でも折れた金属バットによる怪我や打球の速さが招いた事故などがあとを絶たず、高野連では金属バットの重量と太さに制限を設けたり、打撃投手には専用のヘッドギアを着用するよう義務付けたりという危険防止策をとるように。

木製バットと比べて、金属バット自体や早い打球が人体に当たった場合危険なことは安易に想像がつくと思いますが、様々な対策を講じてでも日本の高校野球では金属バットの使用が継続されているというわけですね。

ミートする技術が疎かになってしまう

金属バットと木製バットの違いのひとつに、バットの芯の広さがあります。

木製バットは金属バットよりも芯の部分が細く、真芯でミートしなければまともな飛距離が出せませんから、ミート技術を磨くことができるのです。

木製バットでは、球を芯で捉えた時と芯を外れた時では、手に残る感覚が全く違うのだそう。

金属バットが現れる以前に竹製のバットも使用されていたのですが、こちらは木製よりもさらに芯が細く、ボールを芯でとらえる技術をあげるために最適だったようです。

比べて金属バットは芯が広いので多少真芯から外れていても筋力さえあれば遠くへ飛ばすことができ、高校野球ではミート技術よりも筋力アップに力を注ぐ傾向がみられます。

このパワーバッティング、いわゆる「金属打ち」に慣れた選手は木製バットに適応することが難しくなってしまうということなんですね。

あの松井秀喜選手は練習で竹バットを愛用していて、巨人に入団したとき竹バットを持参したのだそう。

金属バットで甲子園を沸かせたスターは、ミート技術を磨くために金属バットの威力に頼らず竹製や木製のバットでの技術練習を大切にしていたということなんですね。

投手への負担が大きい

近年、高校野球では一人の投手にほとんどマウンドを任せるチームもありますが、やはり投手を何人か揃えているチームの方が圧倒的有利になります。

投手への負担が大きいのは猛暑だけが理由ではありません。
金属バットで飛距離を出すために筋力アップが進むなか、打線の1番から9番までパワーバッターが並ぶため変化球を多投する必要があり、投手の負担は以前と比較できないほどです。

真芯から外れていても飛距離が出る金属バットではバッターが圧倒的有利になってしまうということです。

ちなみにアンダースロー投法のピッチャーが激減したのも、金属バットの存在が影響していると言われます。

アンダースローはバットの芯を外すのが身上ですから、多少芯を外しても飛距離が出る金属バットが相手では通用しなくなってしまったということですね。

高校野球の金属バット使用はいつから?

たくさん並べられた金属バット
そもそも、なぜ高校野球では金属バットを使用しているのでしょうか?
いつから、なぜ導入されたのか?詳しく調べてみました。

金属バットはいつから導入された?

金属バットがはじめて導入されたのは1974年。昭和49年です。
それ以前は皆木製バットを使用していました。

現在は改良が進み金属バットも軽量化していますが、当時の第1号バットは非常に重く、使い慣れない普通の球児にはとても手におえるものではなかったようです。

金属バットは打撃センスのある巧打者には必要なく、少し粗いパワーバッティングの選手に持たせることが多かったようです。

金属バットが導入された理由

金属バットは、実は経済的理由から開発されました。
金属バットが現れるまではバットは消耗品と考えられるほど頻繁に折れてしまうものだったからです。

技術の高いプロの選手でも芯を外せば折れてしまう木製バット。
それを技術の未熟な高校生ではすぐに折ってしまい、たとえ新品であっても一度のバッティングで折れてしまうことも。バットの購入代だけで野球部の負担は相当のものでした。

そこで折れにくく長期間使用できる金属バットが開発され、高校野球に導入されたわけですね。

高校野球では金属バットを使うという規定があるの?

金属バットと球児の足
高校卒業後は木製バットを使わなければいけないのに、高校球児はみな金属バットを使用しているように見えます。木製バットは禁止されていてやむを得ず金属バットを使用しているのでしょうか?

イメージとしては高校野球イコール金属バットですよね。

そこで、高校野球で使用するバットの規定があるのかどうか調べてみました。

高校野球で使用するバットの規定

高校野球で使用するバットの規定は、長さや重さの他に「材質」の規定も存在していました。
使用が許可されているバットの材質は

  • 木製バット
  • 木片の接合バット
  • 竹の接合バット
  • 金属製バット

の4種類。

なんと、竹のバットでも出場可能なわけですね。個人的には見てみたい気もしますが…。

地方によっては「雷が鳴った場合木製バットを使用」という決まりでベンチに必ず木製バットを用意しておくように義務付けられていることも。

高校野球において木製バットを使用することは禁止されていないのですね。

木製バットを使う球児はいない?

木製バットが禁止されていないとはいえ、私は今まで木製バットで打席に立つ高校球児を見たことがないような気がします。

そもそも高校野球は金属バットを使用するものだという先入観で見ていますから、まさか木製バットを使う選手がいるかどうかなんて考えもしませんでした。

ところが、木製バットを使う高校が存在しました!
なんと「愛工大名電」。言わずと知れた強豪校であのイチローの出身校です。

とはいえ、甲子園の打席で木製バットを持って強豪校のピッチャーと対戦しているというわけではなく、県大会などで大差がつくと木製バットを使用するようです。

理由はわかりませんが、大勝する自分達にハンデをつけて試合に意味を持たせているということろでしょうか。正直、対戦相手にしてみれば悔しいですね…。

愛工大名電では甲子園でもバントの場面で木製バットを使うこともあるようです。たしかに木製バットのほうが芯を外して打球の勢いをころすことができます。

木製バットは規定で使用が許されているわけですから、こうしたバットの使い分けも選択肢にあるんですね。

高校野球で金属バットを禁止すると…

空色のベンチに寄せられた野球道具
高校野球で金属バットが禁止されると、当然、大学やプロ同様に木製バットを使用することになります。

今までの高校野球となにが変わるのか具体的に考えていきたいと思います。

飛距離が出なくなる

金属バットのかわりに木製バットで飛距離を出そうとするならば、相当の技術が必要になります。

プロの選手のバッティングフォームをスロー再生で見るとわかるように、木製バットで飛距離を出すにはバットの「しなり」を上手く使う必要があります。

この「バットのしなり」を使うにはしっかりしたフォームが身についていなければいけません。

多くの高校球児はそのような技術が未熟なため、金属バットと比較すると飛距離を出せる選手が激減し、結果としてホームランなどの長打が減ってしまいます。

高い技術を指導できる指導者のいる高校と、そうでない高校の格差が広がることも考えられます。

経費がかかる

先述したとおり、金属バットは経費削減のために導入されました。

これを禁止して木製バットにすると、当然バットは折れやすく短期間で購入しなければいけない消耗品になってしまいます。

木製バットはバットの先で打ったり根本で打ったりすると折れてしまいますから、バッティングの技術が未熟な高校生ではすぐにバットを折ってしまうことでしょう。

予算の豊富な強豪校ならば経済的に余裕があり対応できるかも知れませんが、そうでなければ深刻な問題なわけですから、この問題もまた学校ごとの格差を生む可能性があります。

また、ただでさえお金のかかる野球ですから、バットの金銭的負担が増えることで野球を続けることを断念しなければいけない球児がいるかも知れません。

本当に高校野球では金属バットを禁止した方が良いのか?

観客で満員の甲子園球場全景
高校野球で金属バットの使用を禁止すべきという意見と、なぜ高校野球では金属バットが使用されているのかという経緯、金属バットを禁止して木製バットを使用するとどんなことがかわるのか、をお話してきました。

これらを踏まえて、高校野球では本当に金属バットを禁止するほうが良いのか?という話をしたいと思います。

国際的に木製バットが選ばれている中、日本の高校野球だけは金属バットを使用している理由が見えてくるのではないでしょうか。

高校野球の盛り上がりについて

金属バットを使用する魅力の代名詞というべき存在が、甲子園で活躍した徳島の池田高校です。

池田高校は攻撃的な野球で、バントやエンドランで進塁させることが主流だった高校野球の攻撃の仕方をガラッと変え、日本中に衝撃を与えました。

アルプスに響き渡る「カキィーン!」という金属バットの音はやまびこに比喩され、かの有名な「やまびこ打線」という言葉が誕生し人気を呼びました。

力や技術が未熟な高校生でも長打を打てる、打撃で勝負ができる試合展開は観客も選手もやはり楽しめるものだと思いませんか?

選手のモチベーションにもつながりますし、夢があると私は思うのです。

進化した金属バット

しかし、金属打ちに慣れることによる打撃レベルの低下を危ぶむ声も無視できないですよね。木製バットが良いのだろうか?
しかし、経費の面で考えれば木製バットでは負担が大きいですね。やはり金属バットか?

そこで、どちらか一方を選択するのではなく「第3のバット」の誕生を考えたのがアメリカです。アメリカではすでに木製バット並の反発係数を出す金属バットを開発しているのだそう。

金属バットですから今まで通り長持ちしますし、さらに従来の金属バットのようにボールを反発しやすいわけではありませんので打球の速さや飛距離は木製バットに近いということになります。

金属バットと木製バットの良いとこどりのバットを使えば解決する問題かも知れませんので、実用化に期待したいですね!

木製バットに戻すのではなく、進化した金属バットがあればプロを目指す一部のトップレベルの選手だけではなく、高校球児全体に格差なくチャンスが与えられるのではないでしょうか。

まとめ

  1. 打撃技術向上のために高校野球での金属バット使用を危惧する声があります
  2. 金属バットは経費負担を軽くするために高校野球に導入されました
  3. 高校野球の規定によると金属バット以外のバットも使用することができます
  4. 高校野球での金属バット禁止は技術面や経済面で格差が生まれる可能性があります
  5. 金属バットと木製バットの良いとこどりである進化した金属バットの実用化が待たれます

金属バットの登場によって高校野球の面白みが増して人気が出たことは間違いないと思います。

高校野球は何が起こるかわからない、強豪校に地方の公立高校が勝利する大逆転劇などは、技術では劣っていても気持ちで持っていける金属バットから生まれる長打がもたらすものかも知れません。

恵まれた環境の強豪校だけではなく、すべての高校球児にそのチャンスを与えていただきたい。

強豪校の選手もまた、何が起こるかわからない高校野球だからこそ情熱を注いで甲子園を特別な舞台と感じているのではないでしょうか。

甲子園球場に響き渡るあの金属バットの快音を、夏の風物詩としてこれからも楽しみたいものです。




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