「かむ」という言葉を漢字に書き換える時、皆さんはタイトルのどちらを思い浮かべますか?
前者の方がよく見るという人がいれば、いやいや状況によって使い分けるよ、という人もいると思います。
今回はそんな「噛む」と「咬む」の違いについて、いろいろな観点から見てみたいと思います。
何気なく書いてある漢字が、本当に伝えようとしていることがわかるかもしれません。
意味と感じで見る「噛む」と「咬む」
まずは「かむ」の意味を見ていきます。
かむ【噛む・咬む】
- ①上下の歯で、ものをはさみ、切ったりおしくだいたりすること。
例:よくかんで食べる 舌をかむ - ②水が激しくぶつかること。
例:岩をかむ波 - ③きつくはさむこと。
例:ファスナーが布をかんでいる など
辞書における「かむ」の意味は漢字によって分けられていません。
つまりは、漢字表記的にはどちらを使っても間違いではないことになります。
と、これで終わってしまっては元も子もありあせん。
なので、次に漢字から2つの「かむ」を見てみます。
【噛】
音読み:ゴウ、ゲツ
訓読み:かむ、かじる
【咬】
音読み:コウ、ゴウ
訓読み:かむ
あまり違いがないように見えますが、「噛」には「かむ」以外にも「かじる」という意味があります。
一方、「咬」には「口が交わる」という感じの成り立ちがあります。
また、上下の歯をかみ合わせることを「咬合(こうごう)」と言います。
このことから「噛む」と「咬む」の違いは、「噛む」は「かじる」という意味での「かむ」で、「咬む」は上下の歯をかみあわせるという意味での「かむ」という違いがあることが言葉の意味から考えることができます。
使う場面で見る「噛む」と「咬む」
「噛む」と「咬む」の漢字の意味としての違いがあるのはわかりましたが、実際に使われる場合はどうなのでしょうか。
ここでは3つの例から見ていきます。
人における「噛む」と「咬む」
「ご飯をよく”かんで”食べる」や「歯の”かみあわせ”を矯正する」などの場面で「かむ」という単語をよく見ますが、漢字の意味で言うと「咬む」の字が使われる方が適しているように見えます。
しかし、一般的に見るものは「よく噛む」や「噛み合わせ」のように「噛む」の字になっています。
漢字変換の候補で最初に出るのも「噛む」の方です。
ただし、これが歯科医の専門的な用語になると「咬む」の方が使われるようになります。
これは先ほど「咬」の項目で見た「咬合」がそれに当たります。
他にも「咬傷(こうしょう)」や「咬痙(こうけい)」のような見慣れない単語があります。
これらのことから見ると、人における「噛む」は一般的な場面で「かむ」を表記する時に使い、「咬む」は専門的な場面で「かむ」を表記する時に使う、という見方ができます。
犬における「噛む」と「咬む」
「犬の”かみ”ぐせ」などのように、犬にも「かむ」という表現を使うことがあります。
この場合は「噛む」と「咬む」がはっきりと分かれています。
「噛む」と表記する場合は、「甘噛み」や「要求噛み」のように自分の意思表示として相手を「かむ」時で、「咬む」と表記する場合は「攻撃咬み」のように相手を傷つけるために「かむ」時に使うものになっています。
これは犬以外の他の動物にも当てはまるものです。
比喩における「噛む」と「咬む」
人が相手を傷つけるのに物理的に「咬み」つくことはなくはないですが、ほとんど使わない言い方です。
ただ、「相手の意見に噛み付く」や「喜びを噛み締める」といったように、比喩的な表現でも「かむ」という言葉を使います。
その場合で見ても、やはり「噛む」の方が多く使われており、「噛む」の方が一般的な表現で使われていることがわかります。
まとめ
今回の「噛む」と「咬む」についてまとめると、
- 「噛む」はかじるという意味、「咬む」は上下の歯が合わさるという意味がある
- 人における「かむ」は「噛む」が一般的で、「咬む」は専門的である
- 動物における「かむ」は「噛む」が意思表示で、「咬む」は攻撃としてのものである
の3つになります。
「かむ」という一つの行為に対しても状況に応じた漢字があるということがわかりました。
しかし、現実的にはいちいち使い分けるのは面倒くさいので「噛む」に統一されており、結局どちらを使っても問題がないようになっています。
ただ、今回の記事を覚えておいて、見た時に意味をかみ締められると、一つ違った発見があると思うので、ぜひ、頭の片隅に入れておいてください。