剣道部の顧問を任されている先生方、団体戦においてチーム編成をする際大将にはどのような子を置きましたか?
剣道歴が長く、教職員大会に出場するような顧問ならチーム編成もすんなりできるかも知れませんが、中には剣道未経験で顧問を任されたという先生もいるのではないでしょうか。
そこで
- 大将に置くのはどんな性格の子が向いているのか
- 大将という凄まじいプレッシャーから、子供をどうやって見守り、チームとしてフォローしていくべきか
というお話をしたいと思います。
これはチームの勝敗も左右することですし、教育者として忘れてはいけない非常に大事なことです。
是非参考にしていただけたらと思います。
大将の役割
団体戦における大将の役割をどのように定めてオーダーを組みますか?
やはり一番強い選手を大将として選ぶ学校が多いので、並み居る強い選手を相手に戦うにはやはり自チームで一番強い選手を…と考えがちですが、それはチーム事情によります。
中には中堅に一番強い選手を置くチームもあれば、先鋒~中堅で勝負を決めようとオーダーを組んでくる学校もあります。
大将まで繋いで勝敗を決める役割の大将
一番強い選手を大将に置いた場合、役割はただ一つ。チームの勝利を決めてくることです。
前4人で勝負を決められずに大将戦にまわってくると、全ては大将にかかっています。
やるべきことは決まっています。
二本勝ちしなければいけないのか、
一本勝ちでもいいのか、
引き分けでもチームの勝利が決まるのか。
もし一本とられても一本で抑えれば大丈夫なのか、
取り返して引き分けに持ち込むか、二本返して絶対に勝たなければいけないのか。
そして、相手は代決にまわして勝てるようなチームか。
もしも一人個人で強い選手がいたら、絶対に代決に持ち込んではいけません。
チームの勝利のために何をすべきか考え、後ろに控えている選手はいませんからここで絶対に決めてこなくてはいけません。
「捨て大」という役割の大将
先鋒~中堅の選手が明らかに強い学校をたまに見かけますよね。
それは他校に最強の大将がいる場合など、その大将と勝負をせずに前3人で勝負を決めようという作戦だったり、何かしら意図があって組んでいるオーダーで、その場合、大将は「捨て大」と呼ばれます。(ちょっとひどい呼び方ですよね)
そのような作戦で大将を選ぶ場合、あまり考えずに人選するのは良くありません。
なぜなら大将戦の前に勝負を決められなかったら?結局大将に勝敗が委ねられます。
そんな時、奇跡を起こすのが捨て大の役割です。
捨て大がもし引き分けて代決に持ち込んだり勝利を決めてきたりしたときのチームの盛り上がり、感動はすごいですよ!
どんな選手が大将に向いている?
さて、大将にはどんな役割を求めてオーダーを組むのか、その役割によって選ぶ選手の性格も違ってきそうですが、実はどんな役割であっても「大将」というポジションは特別なもの。
役割は違っても大将に向いている性格は同じと考えて良いかも知れません。
チームでいちばん強い人を大将に、という決まりはありません。
もちろんある程度強くなければ大将は務まらないのですが、強さだけでなく、やはり大将向きの性格か、大将をする器か、というのも大事です。
そこで、大将に向いている性格や剣風をご紹介します。
体格が良い選手
これは大切です。
やはり大将は各チームの実力者が出るだけあって、体格的にも恵まれた選手が多いです。
小さくて細い選手でも他のチームの大将と互角にやり合えるくらい強ければいいのですが、捨て大、先攻逃げ切り型として体格の小さい選手を置くのは怪我の危険があるのでやめておいた方が良いです。
丁寧で、バランスの取れた選手
大将には絶対に取られてはいけない場面と絶対に取らなければいけない場面が巡ってくるので、しっかりと構えながらもチャンスの時は思い切る、攻守のバランスが良い選手が向いています。
ミスが許されないので、リスクの少ない、基本に忠実な剣道が理想です。
あれこれと独自研究して技などを自分のものにしようとする向上心は素晴らしいのですが、それを崩れた形で実践するような選手は向いていません。
小中学生の男子にはよく、カッコいい技をやりたい!という子がいますが、それに反して、先生に言われたことを忠実に実践できる真面目さ、そして習ったことを鵜呑みにするだけでなく、自分なりにそれを丁寧に磨いていく根気強さも必要です。
そうした様々な面をバランスよく併せ持ち、「こいつが負けたのなら仕方ない」と思われるような人格者であれば皆が納得して大将を任せられるのではないでしょうか。
必殺技を持っている選手
選手にはそれぞれ得意技があると思いますが、自分の得意技の他に普段あまり出さないような「必殺技」を持っている選手だとなお良いです。
どうしても一本取らなければならない時に、返し胴や返し面などで必ず一本取れる子は安心感があります。
応援している側としては、「まだあれが出ていない!あれで一本取って来い!」という気持ちです。
信頼の厚い上級生が望ましい
やはり年の功と言いますか、チームのみんなに信頼される上級生を大将に置いたほうが良いでしょう。
例えば、小学3年生から剣道を始めた中学2年生のA君と、中学校から剣道を始めた中学3年生のB君がいるとします。
単純に考えるとA君は剣道歴5年、B君は3年で、A君の方が強いので大将になりそうです。
しかしB君の方がこのチームにいた時間は長く、チームメイトとのコミュニケーションも取れています。
大事な勝負所で「絶対にチームを勝たせたい」という思いは、長く同じ仲間と剣道をしてきた上級生の方が強いでしょうし、それなりに責任を負う覚悟もできているでしょう。
例え剣道をしてきた時間が経験者の下級生であるA君に劣っていても、生きてきた時間はB君の方が勝っていますし、精神的な落ち着きもあるのではないでしょうか。
何よりも「今年が中学最後の一年だ」という意気込みが強いでしょう。
中学生くらいだとたまに「先輩がみんな雑魚だから仕方なく強いこの俺が勝ってきてやるよ」という気持ちの経験者下級生がいますが、こういう子はいくら剣道が強くてもまだ大将の器ではありません。
大事なところでのミスは許されませんから、向上心を買って先鋒あたりで修業させておくことです。
知っておくべき大将の苦悩と、チームが出来ること
いくら「こういう性格の選手が大将に向いている」と言っても大将のプレッシャーは凄まじく、メンタルが強い子にとっても苦しい立場です。
ここでは他のポジションの子にも知ってもらいたい大将の苦悩と、最後の砦である大将が良い試合ができるように、チームとして出来ることをお話します。
大将を任された子はなかなか周囲に弱音を吐くことができません。一人で背負って戦っていることが多く、孤独なポジションです。
ですから、選手たちの意思疎通がうまくいっていないなと感じたら顧問の先生は大将の気持ちをよく聞いてチームのみんなに上手に伝えてあげてほしいのです。
皆自分のポジションをこなすことで精一杯かも知れませんが、競った試合で大将まで繋ぐには大将に対する信頼が非常に大切だからです。
大将がどんな気持ちで試合に臨まなければいけないか、苦悩を知るとチームは安易に大将に丸投げすることがなくなるでしょう。
大将の苦悩
大将という立場のプレッシャー
試合が終わった後、多くのチームは顧問の先生と共に廊下に出てミーティングをすると思います。
負け試合の後のミーティング時は、試合の直後という事もあるのですが、大将が一番落ち込んでいることが多いです。
先鋒が取ってこなくても、副将が二本負けしてきても、大将の子が一番「ごめんなさい」と言います。チームの負けの原因がどのポジションであろうと、直接の原因は大将だと本人は思いがちです。
なぜなら、チームの勝敗は自分の試合次第だから。
どんなに前4人が不甲斐ない試合をしてきても、それを取り返すのは大将だから。
大将はただ強いだけではありません。たくさんの気持ちを背負って戦っているのです。
そんなポジションですから、「自分がチームのために絶対に勝ってきます」と前向きに大将になった子も、「お前が一番強いから大将だ」「大将はお前にしかできない」と大将に抜擢されて喜んだ子も、一度は大将という立場に大きなストレスを感じます。
例えば、自分のせいでチームが負けることが何度か続いたり、スランプに陥ったりした時。大将の役割を果たせていないな、と感じた時。相手チームの大将との差を大きく感じた時。
相当強くて滅多に負けない子や鋼のメンタルを持っている子でない限り、普通に大将をやっていれば誰でも大将という立場に押しつぶされそうになってしまいます。
「どうして自分が」という気持ち
喜んで大将になった子もいれば、「どうして私が大将をしなければいけないの」と自分の意思に反して大将に選ばれる子もいます。
私もそんな場面を何度か見てきました。
例えば、背が高く、呑み込みが早いので期待の新人として大将になった子。
格上相手に良い勝負を続けているうちは本人も楽しそうでしたが、やはりいきなり大将というのは荷が重かったのか、ある日「大将を降りたいです」と言いました。
そして、メンタルの強さと勝負強さを買われて大将になった先輩。
いつものんきで、私はその先輩のことを「勝っても負けても何とも思わないんだろうな」と思っていましたが、ある日大会で「弱いのになんで私が大将なの?」と泣いていました。
全国大会に行った時のチームでさえそうです。
私はその時まだ一年生で、「この人たちは恐いものなしの最強チームなんだ、自信に溢れているカッコいい先輩方だ」と遠くから見てそう思っていましたが、その時の大将の先輩は「どうして私が大将なの」と家で密かに苦しんでいたという事を後から聞きました。
オーダーを組んだ先生などに「先攻逃げ切り型」や「捨て大」などの何らかの戦略がある、または「大将向きの剣風だからどうしても大将に置きたい」という考えがあって大将に抜擢された子は、この疑問やプレッシャーと戦い続けなければなりません。
チームとして出来ること
大将に勝負をまわさないという意識
先ほどお話しした先輩の「弱いのになんで私が大将なの」という本音に、私ははっとさせられました。
私は今まで、先輩の負担が少しでも軽くなるようにと考えて試合をしたことがあったか。だらだらと自分の試合をして、当り前のようにこの先輩に勝負をまわしていたんじゃないか。と、とても反省しました。
大将が5番手なのは決まりだから仕方ない。自分が先生に怒られない試合ができればそれでいい。と当り前のように大将に勝負をまわしている人、いませんか?
大将の子は他のポジションの子とは比べものにならないプレッシャーの中で戦っています。
自分の試合でチームの勝負が決まる、と思うと気が気でないと思います。
大将にそんなプレッシャーを与えないよう、前の4人は後ろに繋いで、繋いで、という意識が大切であり、一番後ろで待っている大将が少しでも楽に試合ができるようにみんなで協力しなければなりません。
相手が格上の場合、引き分けをするつもりで試合をすると一本とられます。しかし大将へ負担をかけないよう一本取る気持ちで向かっていけば引き分けることができます。
それが結果的にチームの勝ちに繋がります。
大将を精神的にサポートする意識
お話してきた通り、大将は物凄いプレッシャーの中で戦っています。
私は強くありませんでしたし、性格的にも大将の器ではなかったので一度も大将を経験したことがありません。そんな私が、大将がどんな気持ちで戦っているのかは分かりません。
しかし、他のチームメイトが、大将のプレッシャーを少しでも理解してあげることはできます。
優しい言葉を掛けてあげたり、試合について相談に乗ったり、具体的に先鋒から副将までの戦い方を話し合うこともできます。
自分のことしか考えずに試合をすると、たとえ個人戦で勝てた相手にも団体戦では勝てません。
なぜなら、団体戦になると多くの選手はチームのことを考えながら試合をし、自分の実力以上のものを発揮するからです。
剣道の強さにまだ自信が無い子でも、チームに貢献したいという気持ちを大切にしていけば、おのずと大将にまわさない試合ができるようになるのではないでしょうか。
まとめ
- 自チームの大将に与える役割を理解しましょう
- 剣道の強さだけではなく、信頼される人格の子を大将に選びましょう
- 大将のつらさをチーム全員で理解しフォローして勝利に繋げましょう
剣道部に限らず部活の顧問は本当に大変ですよね。
私は剣道に関わった期間の中で何人か顧問の先生をみてきました。
県でも有数の実力者で全中出場チームを率いてきた先生もいれば、七段をお持ちの人格者である外部コーチもいました。
しかし私が一番印象に残っているのは柔道経験があるというだけでいきなり強豪チームを任されることになった先生です。
先生は剣道の知識がゼロの状態から剣道について勉強し、できる限りのことを子供たちのために一生懸命してくれました。
学生の剣道部は顧問の実力に大きく左右されることが多いのですが、剣道未経験の顧問でもチームは全中出場を果たしました。
教育者としてチームをよく見ていてくれたことに非常に感謝しています。
チーム編成するときは子供たちの性格や特性をよく見て、特に大将に対するフォローを忘れないでほしいと思います。
大将という特殊なポジションの重圧に打ち克った選手は素晴らしい経験を積んでさらに大きく成長します。
教え子のそんな成長を目の当たりにできることが、剣道部の顧問をする喜びになるでしょう!
-
【剣道のルール】団体戦の駆け引きと面白さを徹底解説‼︎
続きを見る