「ヨガ」と聞くと、身体の柔軟な女性が難しいポーズをとっているイメージを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?
ヨガは身体の硬い人には難しそう。ましてや高齢者でヨガをするにはよっぽど健康で若々しい人でなければ無理でしょう、と思いがちです。
たしかにヨガは正しいポージングが大事ですし、重心を安定させるための筋力も必要です。
そこで高齢者のためのヨガが考案されたわけですね。
介護予防を目的にアクティビティを行っている老人福祉施設で、ヨガを取り入れるところも増えてきました。
なかなかご自身では運動ができないご利用者さんへヨガをおすすめしたい!と考えている施設の職員さんもいるかと思います。
そこで、高齢者向けヨガについて特徴や留意点をご説明していきます。
簡単で効果のあるポーズもご紹介します。まずは職員さんが詳しくなってくださいね。
高齢者のヨガを知りましょう ~身体のケアのためのヨガ~
高齢者のヨガももちろん、身体を健康にするという目的は普通のヨガと一緒です。
しかし、若い人にはなかなか解らない「気づき」が含まれています。
高齢者の「思い通りに身体が動かない」という苦しみを理解することが大切です。
普通のヨガと何が違うのかを知って、サポートしましょう。
身体を動かせる喜び
高齢者の体力や筋力が低下していくのは自然なことですし、当り前のことです。
ですが、ご本人としては「階段の上り下りができなくなった」「肩があがらなくなった」というような変化には、やはりショックを受けてしまいます。
だからといって落ち込んでそのままにしていると、ますます筋力が低下し身体を動かすことが苦痛になって行きます。
ですから高齢者向けヨガは、自分のペースで自分の身体を自分で動かすことに意義があります。
これが重要なことなので、利用者さんには無理をしないで楽しく身体を動かすことをおすすめしてください。
体力の保持が目的
高齢者のヨガは筋力アップではなく、筋力のキープを目的とします。
筋力の低下による転倒などのリスクを防ぐために行うので、まさに介護予防の考え方ですね。
ポーズを完璧にする必要はありません。不十分なポーズでも、いきいきと身体を動かすことが大事です。
若い頃のように身体が動かず、上手にできなくて落ち込んでしまう方には「今のままでいいんだよ」と声を掛け、現状を悲観することのないよう支えてあげてくださいね。
高齢者のヨガを知りましょう ~心のケアのためのヨガ~
ヨガの特徴として腹式呼吸が挙げられますが、これはゆっくりと深く呼吸することで副交感神経の働きが活性化し、リラックスできるという効果を生みます。
また、背筋を伸ばすことで自律神経が整い、うつ症状の改善などにも効果があります。
高齢者の場合、このメンタル面の効果はさらに重要となります。
不安の解消
高齢者にとって不安感はなかなか避けられないものです。
先にも書きましたが「自分の身体が思い通りに動かなくなっていく」という不安。
自分でできないことが増えてしまい「家族に迷惑をかけているのでは」という不安。
これから歳を重ねていくことによる病気や怪我への不安。
高齢者向けのヨガで少しでも自分で身体を動かすことによって、現状を悲観する気持ちを減らしていくことができます。
また、施設で行うことの大きなメリットは大勢でできるということです。
同じように歳をとった仲間やサポートしてくれる職員さんと一緒に身体を動かせば、孤独感を吹き飛ばすことができ「一人じゃない」と明るく前向きな気持ちになっていきます。
今を生きているという実感
高齢者の方はよく若かった昔の話をしますよね。
昔のことは驚くほどよく憶えているのに新しいことは記憶に残らないことが多いです。
今現在のことに興味を失うのは認知症予防にとって避けたいことの一つです。
施設に出かけるときの身支度一つをとっても、気を遣わなくなったり毎日入浴するのを嫌がったり…。
それは今を大事にする気持ちが薄れていることから来る行動です。
実は、高齢者向きのヨガで深く呼吸をすることによって「今生きている」という感覚を呼び起こすことができます。
人間が生きていくためにする呼吸や食事は生きている実感を持たせてくれますので、意識してゆっくり大きく呼吸するように促してあげましょう。
簡単でおすすめのポーズ
高齢者のヨガでは無理をせず人や物に頼っていいんだ、という考え方が大切です。
安全に行うために、ここでは椅子を使ったヨガをご紹介。
椅子に座ることで正しい姿勢をキープすることが可能で、立位よりも大きく身体を動かすことができます。
使用する椅子は座面にクッションが無く、ひじ掛けのないものを選んで使うようにしてください。
できるだけ利用者さんの身体に合ったものが望ましく、座ったときに膝を90度に曲げて足の裏を床に着くことが理想です。
ナマステのポーズ
最初にとるポーズとしておすすめします。
心を落ち着かせ、ヨガを始めるためのスイッチを入れて集中するためです。
①背筋を伸ばして椅子に座り、肩の力を抜きます。
②胸の前で合掌し、目を閉じます。
③呼吸に集中して、10呼吸したら目を開けます。
胸を開くポーズ
胸を開くことで深い呼吸ができるため、落ち込んだ気分の解消に効果があります。
猫背の改善もできますよ。
①椅子に浅く座り、背筋を伸ばして両手は椅子の背もたれの下の部分をつかみます。
②背中を反らして斜め上を向き、胸を広げて深い呼吸をします。
③5呼吸ポーズをキープします。
上半身をねじるポーズ
ゆっくりとお腹をねじることで胃腸を活発にし、消化機能を高める効果があります。
①椅子に深く座り、左手で椅子の背もたれをつかみ、右手を左ももに添えます。
②上半身をゆっくりと左側にねじり、5呼吸ポーズをキープします。
③息を吸いながら上半身を元に戻し、反対側も同様に行います。
※いきなり肩をひねらずに、おへそから胸、肩、首の順番でゆっくり回旋するようにしましょう。
身体を伸ばすポーズ
体側を伸ばしながら呼吸することで、身体を内側からほぐします。
肩こり解消の効果があり、身体の左右バランスのゆがみを直していきます。
①椅子に座って右手を椅子の座面につき、左手を上に向かって伸ばします。
②息を吸って天井に向かって背筋を伸ばし、吐きながら上半身をゆっくりと右に倒して3呼吸ポーズをキープします。
③息を吸って身体を元に戻し、吐きながら手を下ろします。反対側も同様に行います。
※手を上げるのが難しい方は、指先を肩に触れて行いましょう。
笑いヨガ
インドでよく行われているヨガで、大声で笑うことにより気持ちを明るくします。
両手をバンザイしながら胸を開いて大きな声を出して「わっはっは!」と笑いましょう。
気持ちが沈んでいても、無理やりにでも笑うことで脳が「楽しい」「幸せ」と判断して気持ちが明るくなっていきます。
ヨガの最後に集中を開放して皆で大笑いするのはとても楽しいです!!
まとめ
- 高齢者のヨガは自分のペースで身体を動かすことが大事です
- 高齢者のヨガでは、メンタル面の効果を特に重要視しましょう
- おすすめの椅子を使ったヨガのポーズ
高齢者向けのヨガと普通のヨガの違いを理解していだだけたでしょうか?
ちょっと敷居が高そうだなと感じていたヨガも、高齢者向けにアレンジしたものなら簡単にアクティビティに取り入れることができそうですね。
とはいえ、高齢者に対する心情の理解と心遣いも必要になってきます。
安全にヨガを行うことはもちろん、利用者さんの気持ちの変化にも留意しながら、皆で楽しくポージングして心身ともに健康を目指しましょう!