「こんこんちき」という言葉をつかったことがありますか?
この、なんとも不思議な響きの言葉を使ったことがある人は年配の方でもなかなかいないかも知れませんね。
ましてや若い年代の人にとって「こんこんちき」なんて言葉はなじみがないのではないでしょうか。
しかし、こんなインパクトのある言葉ですから一度耳にするとちょっと気になりますね。
そもそも「こんこんちき」って何なのか?名詞?動詞?形容詞?
謎の多い「こんこんちき」について、意味や使い方、言葉の魅力についてお話していきたいと思います。
まずは「こんこんちき」について、いつどんな場面で耳にする言葉なのかを探っていきましょう。
「こんこんちき」を使う場面を知れば意味が何となくみえてきますよ。
「こんこんちき」を耳にする場面~時代劇~
「こんこんちき」は江戸時代、庶民に広まった江戸言葉なのですが、江戸言葉に触れるにはやはり時代劇でしょう。
最近は激減してしまいましたが、江戸を舞台とした陽気な時代劇には活気にあふれた江戸市民が登場しますね。
時代劇の台詞
時代劇で調子のよい町人などの「あたりきしゃりきのこんこんちきさぁ!」という威勢のいい台詞を
きいたことありませんか?
ちょっと長めで平仮名ばかりなので解読に困るかも知れませんから、細かくして理解してみましょう。
「あたりきしゃりき」は江戸言葉ですが標準語で言うと「当たり前」という意味です。はっきり言って「しゃりき」は「あたりき」の韻を踏んで語呂をよくするために添えた言葉なので意味はありません。
「当たり前」を洒落た感じでぞんざいに言い放つかんじです。
「当たり前」の粋な言い方は他にも「あたぼう」などがありますね。
さてそれでは「こんこんちき」はというと?まだちょっとわかりませんね。
ちなみに大阪では「あたりきしゃりきのケツの穴ブリキ」というらしいです(笑)
どうやら語呂合わせで響きが良く勢いをつける感じなので大した意味はなさそう。
また「合点承知のこんこんちきさぁ!」なんて台詞もありますね。
「合点承知」は「了解」の意。では、こんこんちきは?
前にある言葉を強調する
「こんこんちき」は前にある言葉の語意を強調する役割を持っているようです。
さきほど例に出した2つの台詞について考えてみると、「あたりきしゃりきのこんこんちき」は「当たり前」を「こんこんちき」が強調しているわけですからただの当たり前ではなくて「至極当然」や「もちろん!あったりまえ!」といったテンションだと解釈できます。
「合点承知のこんこんちき」についても同様に「了解」を強調していますから「わっかりました!」くらいの勢いというわけですね。
このように、物事を威勢よく大袈裟に表現する江戸時代の町人文化の中で「こんこんちき」は便利な言い回しとして流行語だったのかも知れませんね。
「こんこんちき」を耳にする場面~落語~
つづきまして「こんこんちき」を使う場面で多いのが落語です。
落語を身近に感じる笑点などでも大喜利の前に落語家さんが噺をすることがありますね。
落語には上方落語と江戸落語があるのをご存知でしょうか。
上方落語と江戸落語では使用する言葉が違います。上方落語が大阪や京の言葉を使うのに対して江戸落語は標準語で、威勢の良い江戸言葉がでてきます。
私は高校時代、桂歌丸さんの落語を生で聞いて以来、落語に結構興味を持ちました。
たまに深夜に放送している落語をBGMのように聞いていたりするのですが、印象が強いのはやはり威勢の良い江戸言葉を使った江戸落語でしょうか。
登場人物が「こんこんちき」
江戸落語ではかなりの頻度で間抜けな登場人物が存在します。
江戸の言葉で「馬鹿」「間抜け」「のろま」を意味する擬人名として「与太郎」という登場人物が江戸落語には登場しますが、与太郎も落語で使われたことから広く浸透した言い回しです。
与太郎は噺の中で本当に話が通じないおバカキャラといったところ。この与太郎に浴びせられる罵声には随分「こんこんちき」が登場します。
例えば
まずは「すっとこどっこい」から解説しますと「馬鹿野郎」という意味が近いです。
唐変木とは偏屈者や気の利かない人をあざ笑う言葉のようです。
人を冷やかした使い方
さて、「すっとこどっこい」「唐変木」に「こんこんちき」がついている…。前述の解釈だと「馬鹿」を強調しているということになるのでしょうか?
実は人物に関して「こんこんちき」がつけられる場合、その人物に対する冷やかしだったり罵りだったりするのですが、注目すべきは噺の内容によって冷やかし程度なのか罵りの言葉なのか変化するほど便利な言い回しだということですね。
「こんこんちき」を耳にする場面~歌舞伎~
意外かも知れませんが、歌舞伎の台詞にも「こんこんちき」は出てくるんです。
歌舞伎は今でこそ鑑賞するのに多少敷居の高いお芝居ですが、江戸時代は大衆演芸でした。
演目も身近なストーリーが多く、笑いもふんだんに盛り込まれています。
こんなふざけた感じの言い回しを使う場面もあったのですね。
歌舞伎の捨て台詞
歌舞伎の有名な捨て台詞として「大馬鹿野郎のこんこんちきめ!」という言い回しがあります。
ちなみに捨て台詞とは、本来歌舞伎の用語で、台本にはない台詞をその場の状況に合わせて臨機応変にいうことを指します。いわゆるアドリブというところでしょうか。
歌舞伎によって「こんこんちき」という流行語が生まれたと言っても過言ではないかも知れませんね。
語呂や勢いの良さ
歌舞伎で「こんこんちき」という江戸言葉を使うことで演技に「粋」や「スピード感」が出るのかも知れません。
「大馬鹿野郎め!」という台詞よりも「大馬鹿野郎のこんこんちきめ!」のほうが拍手喝さいが起きそうですね。
このように、歌舞伎では言葉自体に意味はなく、語感が良いという理由で相手を罵倒する言葉の後ろにつけて親しまれていたようです。
そして歌舞伎でのカッコいい台詞としてさらに大衆に広まったのでしょう。
「こんこんちき」に語源はある?
ところで「こんこんちき」という言葉自体はどこからやってきたのでしょうか?
いくら語感が良いからといって何の意味も語源もないわけではありませんね。
もちろん言葉の音を大切にした便利な言葉なのですが、語源らしきものも存在しますし、語源の雰囲気を利用した上手な「こんこんちき」の使い方はとても粋なのでご紹介したいと思います。
語源1 馬鹿囃子の音
「こんこんちき」という鳴物のような言い回しは、江戸系の祭礼囃子(馬鹿囃子)や里神楽などの拍子の音を表現しているという側面もあります。
だるま、ひょっとこ、おかめなどの馬鹿面と呼ばれる道化面をかぶって踊るので、そのお囃子を馬鹿囃子と呼ぶようです。
「こんこんちき」という言葉の使い方とは直接関係なさそうですが、少し人を笑わせるような小ばかにしたような明るいニュアンスが伝わりますね。
語源2 きつね
「こんこんちき」とは江戸の方言で、元々は狐のことを「こんこんちき」と呼んでいたのだそう。
なんだか可愛らしい言葉ですよね。
なぜ狐という意味の方言が上記のような使われ方をしたのかは不明ですが、やはり音の勢いが良かったのでしょうね。
落語のなかに「ありがた山のこんこんちきでさぁ」という台詞があるのですが、山のこんこんちき…語源のきつねを感じるセンスの良い使い方ですね!
ちなみに「ありがた山の…」という言い回しは江戸仕草のひとつで、面と向かって「ありがとう」と言うのが恥ずかしいと感じる江戸っ子が洒落た言い方で感謝の意を述べるときに使う言い回しです。かっこいい。
さらにちなみに「ありがた山」とは東京都稲城市にある通称南山に存在する石仏群のことを指すのだそう。
まとめ
- 時代劇で耳にする、言葉を強調する使い方
- 落語でよく登場するおバカキャラを冷やかす使い方
- 歌舞伎で使われる粋で格好いい使い方
- 「こんこんちき」の語源はお囃子や狐
江戸言葉って、調べれば調べるほど粋で格好いいですね。
私は今まで「こんこんちき」は大声で人を罵倒するときに使う言葉だと認識していました。
しかし、もっと使い道が広く結構なんでもアリな、いかにも江戸っ子らしい言い回しのようです。
ちなみにかの名作、オー・ヘンリーの「最後の一枚の葉」という文学作品の和訳になんと「こんこんちき」が登場しています。
原文は
これを訳して
となっています。flibbertigibbetとはおしゃべりで軽薄な人という意味です。
「こんこんちき」の奥深さを感じます!
女性が使うと意外と可愛らしい言い回しなのかも知れませんね。