苦い顔をする幼児




雑学

「苦虫を噛み潰したような顔」ってどんな意味?正しい使い方は?




「苦虫を噛み潰したような顔」という言葉は正しくはどういう顔のことを指すのでしょうか?

この言葉を知っている人も知らなかった人も、言葉だけで大体どんな顔なのか想像がつきませんか?
この言葉は正しい意味を知らなくても想像で意味が通じる、ちょっと不思議な言葉ですね。

そのぶん、言葉の使い方の幅が広がり過ぎて「もしかして間違った使い方をしている?」だとか「この場面での表現としては間違っているのかな」と少し心配になってしまいますね。

そこで「苦虫を噛み潰したような顔」はどのような場面で使うのが正しいのか調べてみました。

「苦虫を噛み潰したような顔」とはどんな顔?

電車で渋い顔をして立っているサラリーマン

「苦虫を嚙み潰したような顔」という言葉には大きく分けて3種類の意義素が存在します。

意義素というのは語がもっている最も基本的な意味のことです。

意義素についてそれぞれの類語を集めてみると、一般的に「苦虫を噛み潰したような顔」がどのような顔のことを指すのか具体的に見えてきます。

意義素1 考え事などで顔にしわが寄っているさま

類語は以下の通り

苦渋の表情・難しい顔・渋い顔

どれも一言で言うと眉間にしわを寄せた苦しい心情の顔だな、ということがわかりますね。
深く悩んでいる、我慢しているようなどちらかというと静かな感情のイメージです。

意義素2 不満や不快が表れた表情のこと

類語は以下の通り

面白くない顔(面白くなさそうな顔)・険しい表情・厳しい表情・いかめしい表情・強張った表情

にこりともしない、人を寄せ付けない空気を感じます。
こんな顔をしている人にはちょっと近づけないですね。遠巻きに観察してしまいます。
わかりやすく不満の感情を表している表情で、怒りを抑えながらも感情をあらわにしているイメージです。

意外な類語

意義素2の不満や不快が表れた表情の類語には

しけた顔・不景気な顔・暗い顔・しょぼくれた顔・沈んだ顔

というような、落ち込んだ様子を表す言葉も含まれていました。
どうもこれらは「苦虫を噛み潰したような顔」という表現には当てはまらないような気がしますよね。

しかしそれらが類語ということは、落ち込んだ様子の表現でも場の空気や人物の雰囲気によっては「苦虫を噛み潰したような」という表現がしっくりくる場合があるのかも知れません。
そういえば、苦い虫を噛んだ時の人の表情は一つではないかも知れませんね。
苦い!という顔をする人もいれば魂の抜けた沈んだ顔をする人もいるのかも知れません。

「苦虫を噛み潰したような顔」の一般的な解釈

渋い顔のネコ

どんな表情に対して使えばいいのか何となくつかめたところで、
一般的にはどのような解釈をされているのか考えてみましょう。

苦虫ってどんな虫?

ところで「苦虫」ってどの虫を指すのか気になりませんか?
苦いのに噛み潰しているのだから食用のイモムシあたりを想像しませんか?

しかし、この苦虫という言葉は特定の虫を指すわけではないようです。

広辞苑では「噛めば苦いだろうと想像される虫」と記載されています…虫はどれも苦いでしょ!たぶん。

このように昔から「虫」という表現は不快なもの全般を指す傾向があるようです。
例えば「虫唾が走る」「虫の知らせ」のように、ざわざわしたような不快感を表現するのに使われてきたんですね。

意味

「苦虫を噛み潰したような顔」で意味を調べると出てくる解説をご紹介します。

  • ひどく不愉快そうな顔つきや苦り切った表情を形容した言葉。
  • きわめて苦々しい顔つき。ひどく不機嫌そうな表情のこと。

一般的には不愉快なさま、不機嫌な様子を指していますので、2つの意義素に基づいて使うと間違いないですね。

どれも「ひどく」や「極めて」という強調がされていますので、ただ不機嫌だとかちょっと不愉快という場面では似つかわしくないようです。

似たような意味の違う言い回し

「苦虫を噛み潰したよう」という言葉と同じ意味で「苦虫を食い潰したよう」という言葉もありますがまったく同じ使い方で間違っていません。

また、「苦虫を嚙み潰したような顔」は表情を表していますが、同じように不快感をグッとこらえるような表現として「砂を噛むような」という言葉があります。

ひどく嫌な経験を表すことばですが、偶然にも口の中に入れて不快なものを噛むという表現の仕方ですね。

ちなみに「苦み走った」という表現がありますが、これは「顔つきに渋みがあり、引き締まっているさま」ですので意味が違います。

「苦虫」という言葉を使った文学作品の例

日なたのテーブルに積み上げられた本
「苦虫を嚙み潰したような」という表現をどんな風に使うのか調べてきましたが、文豪たちはこの言葉をとても上手に使っているんです。

「苦虫」という言葉を使った文章をいくつか挙げてみたいと思います。

伊藤佐千夫「春の潮」

…おとよの父は評判のむずかしい人であるから、この頃は朝から苦虫を食いつぶしたような顔をしている

この文章はわかりやすいですね。眉間にしわの寄った気難しい男性が目に浮かびます。

寺田寅彦「音楽的映画としてのラヴ・ミ・トゥナイト」

…むつかしやの苦虫の侯爵が寝床の中でこの歌を始める

「むつかしや」という言葉がそのまま「苦虫を嚙み潰したような顔」の男爵の人となりを説明しています。
気難しい男爵を「苦虫」という存在で表現しているんですね。
このように「苦虫」をニックネームのように使うパターンは他の文豪の作品にも多く見受けられます。

内田魯庵「二葉亭余談」

…加之にラジオで放送までされたら二葉亭はとても助かるまい。苦虫潰しても居堪れないだろう

さあ、この文章はどうですか。「居堪れない」という言葉で何となく意味合いはつかめそうですね。
「砂を噛む思い」と同様の使い方でしょうか。絶妙な言い回しですね。

まとめ

  1. 「苦虫を噛み潰したような顔」とはどんな顔なのか、類語を知ると見えてきます
  2. 「苦虫を噛み潰したような」とは一般的に不機嫌な様子や苦々しい表情を指します
  3. 文豪たちの「苦虫」の高度な使い方をみてみましょう

苦い虫を噛み潰した経験のある人はまずいないと思うのですが、想像してみるとどんな顔になるのか何となくわかりますね。

しかし、この言葉を使う時は「苦虫を嚙み潰したような顔してるなあ…」というふうに、他人の表情を見て使うことが多いのではないでしょうか。

ですから、相手が実際どんな心理なのかは置いておいて、こちら側が相手の心情を読んで表現する言葉なんですね。

「不愉快な」や「怒っている」という言葉を使わず「苦虫を噛み潰したような」という表現は、単なる苦痛や不満ではなく、もっとその奥の静かな感情を推し量って使う表現方法ではないでしょうか。

ですから、簡単にこの言葉を頻発すると深みが失われますので大事な場面でビシッと使うのが良いかと思いますよ。




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