2019年10月から、保育料無償化がスタートするというしらせ。
新聞やテレビで目にした子育て中の親御さん方、いかがですか?
おそらく「やったー!」と喜んだ方と「急にそんな制度をスタートさせるなんて、ずるい!」とお怒りの方とに分かれると思います。
もちろん喜んだのは新制度の恩恵を受ける方々。お怒りなのは恩恵を受けられない方々なのでしょう。
「ずるい!」という声はネットでも随分あがっているようですが、その声は何に対して向けられているのでしょうか。
また、「ずるい」と言ってみたところで残念ながら決まったものは覆らないのが現状です。
新制度について詳しく知らずにただ「ずるい」と言ってみても建設的ではありませんので、どんなところが問題なのか考えてみませんか。
保育料無償化の中身
「保育料無償化」という見出しを目にすると言葉の印象に踊らされがちですが、どんな内容なのかまずは把握しましょう。
2019年2月12日に閣議決定されたのは幼児教育・保育の無償化を実施するための子供・子育て支援改正案で、正式な名前は「幼児教育無償化」といいます。
子供・子育て支援法という法律の内容は、待機児童の解消問題や児童手当のことなどで定期的に見直し、改正されています。
今回の保育料無償化もこの子供・子育て支援法の一環というわけです。
実は現時点でも無償化は進んでいる
保育料無償化は今回の決定で急に脚光を浴びた感がありますが、前述した通り子供・子育て支援法の改正は定期的に行われているので、実は保育料無償化自体は段階的に進んでいるのです。
その範囲を広げた制度が大きく取り上げられているということです。
それでは、現時点での保育料無償化の条件を確認してみましょう。
- 生活保護世帯全て
- 年収360万円未満世帯の第2子は半額・第3子以降は無償
- 市町村民税非課税のひとり親世帯全て
- 年収360万円未満で市町村民税所得割が課税されるひとり親世帯の第2子以降
- 市町村民税非課税世帯の第2子
以上が現時点での保育料無償化の条件です。低所得世帯が対象となっているのがわかりますね。
新制度の概要
続いて、2019年10月より実施される新制度の中身を見ていきましょう。
- 3歳~5歳までの認可保育園に通う子供の・保育料が無償化
- 3歳~5歳までの幼稚園児を持つ家庭に公定価格(月額25,700円)を支給
- 0歳~2歳までの認可保育園に通う住民税非課税の家庭の子供は保育料が無償化
以上が保育料無償化の対象となります。
対象施設として、幼稚園・認可保育園・認定こども園・小規模保育(定員6~19人)家庭的保育・企業が設置する保育施設となっています。
認可外保育園を利用する場合は、
- 0歳~2歳では住民税非課税世帯を対象に月額42,000円まで無償化
- 3歳~5歳は月額37,000円まで無償化
となります。
ただし、自治体の指導監査の基準を満たした認可外保育園でなければ適用になりませんのでご注意を。
新制度では対象施設の範囲が非常に広く設定されています。ベビーシッターや病児保育、ファミリーサポート事業も月額37,000円まで無償化の対象とされているんです。
そしてこの新制度が注目される理由はやはり3歳~5歳の世帯所得制限がないということ。
今まで低所得者が対象とされていた無償化が高所得者まで広がったことで、現行の制度と一線を画していると言っていいでしょう。
無償化のタイミング
さて、この幼児教育無償化はいつからスタートするのかと言いますと、冒頭に申し上げたように2019年10月から。
この年月日、他の制度のスタートを同じではないですか?そう、消費税増税と同じタイミングですよね。
実は幼児教育無償化は2020年度から広げていく予定だったのですが、半年前倒しになったというわけです。
なぜ前倒しにしたのかというと、この消費税増税の税収を幼児教育無償化に充て、子育て世帯の消費の冷え込みを防ぐ目的だといいます。
保育料無償化は不公平でずるいのか?
政府決議案の内容を私たち国民が深く理解するのはなかなか難しいことだと思いませんか?
私たちが選択し投票して作った法案ではありませんし、気づいたら閣議決定されていて「今後はこれでいきますのでよろしく」と言われることが多いような気がします。
これでは新しい法案の恩恵を受けない国民から不満の声が出るのは当たり前ですよね。
しかし保育料無償化の法案は本当に不公平でずるいのか?
不満の声を一つずつ検証してみましょう。
高収入の世帯に無償化は必要なのか?
現行の制度と比較して新制度で注目すべきはやはり3歳~5歳の家庭に所得制限がないという点でしょうか。
これが「所得の高い世帯の保育料を無償化する必要があるのか?」という議論に繋がっているようです。
そもそも保育園や幼稚園に子供を通わせている世帯は収入があるから通わせているのに、なぜこれを無償化するのか、という不満の声が多いようです。
しかし日本は累積課税なので、年収が高くなればなるほど高い税金を払うことになっています。
そして、実際にかかる保育料のうち多くはその税金が使われているんです。
利用者負担分は3歳~5歳では2割程度。4割~5割を自治体が負担つまり税金が使われているということです。
乳児期にいたっては利用者負担が1割程度で、税金が7~8割使われています。
つまり年収の多い世帯は税金も多く払って自治体の公共サービスを支えているということなんです。
高収入の世帯が高い税金だけ払って、保育料無償化から外されたままだと、それこそ「ずるい」と言いたくなるのではないでしょうか。
子育て世帯のための消費税増税はずるい?
なぜ子どものいない家庭や独身者が、子育て世帯のために消費税増税を受け入れなければいけないのか、という声も聞こえます。
まして、今回のように同じ子育て世帯の中でも恩恵を受けられる人と受けられない人が生まれるようでは不公平を感じるのかも知れません。
しかし、このような制度の実施が、すべての国民に直接のメリットがあるということはほとんどないでしょう。
どの税制だって100%自分のためではなく、より良い社会のために役立つためのものなのですが…。
日本人はこの税制に対して意識が低いようです。
社会福祉の意識が低い日本
デンマークやスウェーデン、アイスランドやノルウェーなど北欧諸国は社会福祉が充実していることで有名ですが、これらの国は社会民主主義と呼ばれます。
税金を通じて高所得者から低所得者へ配分する「所得転移」が大きく、国内総生産に対する社会保障費の割合が高いので、当然税金も高いようです。
例えば「世界一幸せな国」と言われるデンマークの消費税率は世界第3位。
ちなみに1位はハンガリー、2位がアイスランドで、3位はデンマークの他にスウェーデン、ノルウェー、クロアチアと福祉国家体制の北欧諸国が多いんですね。
福祉国家の特徴として、貧困率の低さも挙げられます。
富の再分配を行うため、貧困率が低いのです。
日本はアメリカなどと比較すると社会保障の手厚い国と言われますが、実際にはかなり社会保障給付率は低い水準にあるようです。
社会福祉先進国と比較すると、税に対する不満を漏らすあたり、意識が低いと言われても仕方ないかも知れません。
保育料無償化はなぜ批判されるのか?
日本人の社会福祉への意識が社会福祉先進国と比較して低いのは事実ですが、国民が不満を持つのには他に理由がありそうですよね。
それは、新しい保育料無償化の制度が不十分な内容だからに他なりません。
高齢者支援のための増税然り、根本的解決策を打たないまま選挙のための印象操作の手段として政策を打ち出しているようにしか感じられません。
今回の保育料無償化の新制度はどのような問題点があるのか、探ってみましょう。
保育料無償化の意義
まずは、国がなぜ保育料無償化をすすめているのかそもそもの意義を調べてみました。
厚生労働省の資料には
子育て世帯を応援し、社会保障を全世代型へ抜本的に変えるため、幼児教育の無償化を一気に加速することとされました。幼児教育の無償化は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う幼児教育の重要性や、幼児教育の負担軽減を図る少子化対策の観点などから取り組まれるものです
引用/厚生労働省の資料より
とあります。
子育て世帯を応援し…。
少子化対策の観点から…。
果たして保育料無償化の新制度はこの意義を果たしているのでしょうか?
保育料無料化よりも待機児童解消を
保育料を無償化するのは良いけれど、それなら子供を預けて働きに出たいと考える人が増えることは必至です。
現在、保育園にお子さんが入れないため母親が働きに出ることができないという「待機児童問題」が解決されないまま、競争率をさらに上げるような新制度に対して疑問の声が上がっています。
現在保育園や幼稚園などの認可施設に通うことができている世帯への補助よりも、待機児童を受け入れる先を増やすのが先なのではということですね。
認可外保育園に対しての補助も盛り込まれていますが上限がありますし、認可保育園に入れたくても入れなかった方が不満を持つのは当然といえるでしょう。
また、認可外保育園の中には劣悪な施設も存在しています。
無認可保育園が補助の対象となることで、劣悪な施設にまで子どもを預けやすくなるという危惧があります。
両親そろって働きに出たいがためにどこでもいいから子どもを預けるといった傾向が増えなければいいのですが…。
保育士の労働環境改善を
保育料無償化で待機児童問題と並んで懸念されているのは、幼稚園や保育園などで働く保育士さんへの負担です。
現在保育士の労働環境は重労働、長時間労働なうえ精神的にも大きな負担を強いられるにも関わらず給与が低く、保育士を志す人材を確保するのに苦労しています。
今後、保育料無償化によって子どもを預けることが可能になった家庭が増えたとき、受け入れる側の施設や保育士のケアも伴っていなければ成り立たない問題なのではないでしょうか。
保育士の給与が上がれば、保育士の有資格者が保育の現場に戻ってきてくれるかも知れません。
保育士が増えれば負担は軽くなり、それによって優良な施設が増えることに繋がるかもしれません。
どうせ税金を使うのなら保育士の処遇改善に充てた方のメリットが大きそうです。
まとめ
- 保育料無償化の新制度は所得制限をなくしたため現行の制度と大きく違う
- 保育料無償化の新制度がずるいと言われるのは不公平だから?
- 保育料無償化の新制度の内容はその意義を果たしていない
保育料無償化の新制度が注目や批判の的になるのは、どうやら的外れで不公平感が否めないからのようです。
少子高齢化で経済が破綻するのを回避するための施策のはずですが、この保育料無償化は効果があるのでしょうか?
両親ともに安心して仕事できるようになるでしょうか。
子どもたちに貧富の差なく教育を受けさせることができるのでしょうか。
もしこの新制度が経済を潤して皆が幸せになれるのであれば税金が増えることに納得できるのですが…。
しかし「ばらまき」とも取れるような無償化のワードに私たちは騙されてはいけません。
本質的な部分が欠けているために感じる「ずるい」という言葉を漠然と使うのではなく、正しい社会福祉と比較してこそ、意味のある批判なのではないでしょうか。